根源的なものへのアプローチ

 世の中には様々な精神的・心理的な問題を改善・克服するための方法や理論が紹介され個人的にも、それぞれの実施施設等でも実践されています。そういった試みを通じて実際に改善をみたり、克服できたりといったことは数多くあるでしょうが中には“どうもしっくりこない”とか“頭ではわかるんだけど心の中ではついていけてない”とか“一旦は良くなったと思ったのに、また不安になってきた”と感じている人も少なからずいるようです。これらの人たちの多くは、頭の中で理論的に理解できるか納得できるかという次元とは別にもっと自分でもよくわからないような、より根源的な生きることに対する不安感(自分が小さい頃から十分に守ってもらえてない感や自分は誰からも深く理解されていない感のような感覚などで、しばしば本人の意識には上っていなかったりもします。) があり、表面的な操作によるアプローチでは心の奥の深い傷にまでは訴えられないという側面があるように感じています。なのでこのような人たちには、まず何よりも先に自分が無条件で深く受け入れられた、自分が誰かに深く理解してもらえて、自分の思いを共感してもらえたという感覚を十分に得ることの方が必要なことで、そうしてもらえたことから自ら自分のこれまでの人生を落ち着いて振り返る気持ちが生まれ、またそこから自分のこれまでのいろいろなことに対する洞察を得ることができ、“自分が苦しんできたことはこういうことから生じてきたものだったのか”という根底からの理解を得るに至って初めて本質的な改善や克服へのアプローチへと進む場合も多いように思います。

 ただ、一方で自分の問題の根源と向き合うことはある意味苦しさと向き合うことも意味する場合が多いです。この自分の問題の根源と向き合う苦しさをたいていの人は避けたい思いがあるために(それが意識に上っているかいないかはまた別として)何とかして短い期間で、マニュアル的な操作方法で楽になりたいと思うのが人間の正直な心情でしょう。

 なのでまずはそのようなアプローチで取り組んでみるのもいいと思います。それで改善できたり克服できればそれに越したことはないでしょうから。実際に問題の根が深くなければそういったアプローチでも十分に解消に向かうことができるでしょうし、途中から自ら洞察に至って自分で解決していける場合もあるでしょう。それでもどうしてもしっくりとこないとか何か違う気がするとか本当の心が求められるものではない気がするといった場合は、時間はかかるかもしれませんが根源的なものへアプローチする勇気をもってじっくり取り組んでみるのもいいと思います。また、このアプローチで取り組んだ場合は当面の困っている問題の改善だけでなく、その後のその人の人間性全体における成長につながりやすいという利点も期待できます。